人事とか野球とか。

現役の人事部員のブログです。人事のこと、野球のことを中心にまとめています。

報酬戦線異状あり ~三浦大輔が偉大なワケ~

 プロ野球で初めて1億円を超える契約金を手にしたのは野茂英雄である。時はバブル絶頂期、平成の始まった1989年だ。

 

 各球団の財力、戦力のバランスを考慮し、現在ではチーム契約金の上限は1億円+出来高5000万円で設定されている。

 ちなみに筆者が応援するベイスターズでは2019年ドラフト1位の森敬斗は契約金1億円、7位の浅田将汰は2090万円と差は5倍近い。さらに育成契約の場合は契約金ではなく、契約金に比べ少額の「支度金」が支給される。ホークスの千賀投手の支度金は300万円、年俸は270万円だった。2020年の年俸は3億円のため、入団時から実に100倍以上の年俸アップとなった。これぞ福岡ドリーム。

 

 アスリートの報酬は実力主義のジャングルである。ドラ1だろうが育成だろうが実力がモノを言う。ではサラリーマンはどうだろうか?日本の企業は長らく、新卒新入社員の報酬を横一線で差を付けずにいた。強いて言えば学士、修士、博士で差をつけるくらい。その後も多くの企業では数年間は差をほとんどつけずに評価するケースが多い。

 

 ところが、ここ最近で新卒社員の初任給に差をつける企業が現れ始めた。

 

富士通、「ジョブ型」人事制度を導入 幹部社員から 高度IT人材、年収2500万~3500万円想定

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58915330Z00C20A5EA5000/

 

さらば平等、新人から給与格差 ソニーの覚悟

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58191630X10C20A4FFV000/

 

 時はIT人材争奪戦国時代。シリコンバレーではAIエンジニアの平均年収は日本円で約3000万円、専門スキルを有する新人エンジニアでも2000万円を超えるケースがあるという。日本の大卒新入社員の平均年収が約325万円なので、実に6倍以上の差だ。

 

 昭和、平成の時代では新入社員同期横一線の報酬設定が慣例だったが、時代も変われば価値観も変わる。AIの専門知識をみっちり学んだ院卒のエンジニアを獲得するには、今までの報酬制度では限界だ。プロ野球の世界のように、一年目から実力や期待値に応じた報酬を提示しないと、日本企業は生き残れないだろう。

 もちろん入社後は実力の世界。千賀投手のように入社時の報酬は低くとも、頑張ったら報酬がアップする仕組みづくりが人事に求められる。初任給だけ変えて終わり、ではない。

 

 一度会社に入れば安泰…な時代は終わった。アスリートのように入社後も腕を磨き、時には外部の労働市場に柔軟にアクセスできるよう努力を続けないと、生き残りは難しい。もちろん1つの企業に残り続けるのもよい。中村紀洋のように6球団で活躍するもよし、三浦大輔のように1球団でキャリアを全うするもよし。

 筆者は転職経験者だが、転職がすべてではない。大事なのはキャリアを定点観測し、必要な知識をスキルをアップデートし活躍を続けることだ。転職は成長と活躍のための手段に過ぎない。

 

 野球の話に戻そう。

 立浪和義いわく三浦大輔はもともと1種類のスライダーしか投げなかったが、カット系の小さなスライダーを覚えたことで駆け引きの幅が広がり、厄介な投手に進化したそうだ。三浦大輔も常にスキルを磨いたことで四半世紀わたり活躍したのである。通算172勝、歴代9位の2481奪三振3276投球回は歴代19位の堂々たる記録だ。それにしても投球回が通算3000を超えって、20年連続で150イニングと考えればとんでもない大記録だ。

 

 その三浦大輔は現役時代の2008年オフ、タイガースへの移籍濃厚と思われたがベイスターズに残留した。当時は横浜の低迷期真っただ中。チーム状況に加え当時34歳の年齢、310億とも言われた阪神の提示年俸を考えると移籍濃厚と思われたが、「強いチームを倒したい」との思いで残留。報酬は阪神のほうが高かったかもしれないが、報酬以外の大切なことを教えてくれた番長はやはり偉大である。