人事とか野球とか。

現役の人事部員のブログです。人事のこと、野球のことを中心にまとめています。

Baystarsの"B"戦略 ~3Bフレームワーク~

■さようなら、筒香。そして…

 2019年10月28日、その日はやってきた。遂に。やっぱり。

 

 DeNA筒香嘉智ポスティングシステムを利用してのメジャーリーグ挑戦である。筒香は何年も前からメジャー志向を表明していたし、いつかは来ると覚悟はしてきた。が、いざ発表されると複雑な気持ちである。「横浜を代表して頑張ってこいよ!」と背中を押したい気持ちと、「やっぱり行っちゃうのか…」と寂しく心細い気持ちが切なくブレンドされる。前者が7割、後者が3割くらい。国内他球団に行かれるよりはマシだ!と後者の想いは封印し、TSUTSUGOの活躍を期待したい。

 

 気になるのは筒香の後継者だ。誰が彼の後に左翼を守るのか?長打力はもちろん、選球眼も、贅沢を言えばキャプテンシーも欲しい。

 今回は主要ポジションから*タレントが抜けたとき、あるいは将来抜けることが予想されるとき、人事的な観点で後継者の配置プランを考察したい。

  *ここでの「タレント」は芸能人的な意味ではなく、才能ある人材を意味する

 

■3Bフレームワーク

 「余人をもって代えがたい」とは組織や人材配置の議論で良く挙がる言葉だ。

 「彼の税務の知識は組織に欠かせない。異動させられないよ」

 「彼女のリーダーシップと語学力は群を抜いている。海外営業から抜かれちゃ困る!」

 

 球界でも似たような話がある。

 

 「山﨑は不動のクローザー。余人をもって代えがたい」

 「ショートは源田一択。余人をもって代えがたい」

 

 もちろん優れた人材にベストなポジションで活躍してもらうのは当然だ。でも、いつの日かタレントはそのポジションから離れる。営業のエースが転職するかもしれない。怪我や病気で働けなくなるかもしれない。球界でも、主砲がFAで移籍するかもしれない。怪我で登録抹消するかもしれない。離脱は予想できることもあれば、突如訪れることもある。大事なことは慌てないための準備だ。

 

 慌てないための一つの考え方が3Bフレームワークである。3Bは以下の頭文字を表す。

 ・Build(育成)

 ・Buy(外部市場からのタレント獲得)

 ・Borrow(社内他部門からのタレント獲得)

 

 Buildは育成を指す。

 主要ポジションの後継者を早々に定め、育成する。海外赴任や他部門への異動、大人数の組織のマネジメントなど、難易度の高い仕事を経験させる、育成の王道である。かつて西武ライオンズの不動のショート、松井稼頭央は2004年にメジャーへ移籍した。日本最終年の2003年は打率.305、33本塁打OPS.914。改めて見ると凄まじい。これだけの大選手の後任はなかなか見つからない…と思われた矢先、中島裕之(現在は「宏之」表記)が彗星のごとく現れ、打率.287、27本塁打OPS.853を記録。22歳の若獅子が見事にその穴を埋めた。ここまでスムーズに世代交代が進むケースは稀だが、西武の野手育成力には目を見張るものがある。

 

 Buyは外部市場からの獲得だ。

 スキルを有する者が社内にいない場合の中途採用などが該当する。たとえばIT関連の新規事業立ち上げの際にITスキルの高い人財を社外から採用するケースだ。

野球に例えればFA選手の獲得が一番分かりやすい。筆者は大和選手が横浜に来てくれた時は涙を流して喜んだものだ。

 

 ただし、FAと同様にBuyはコストが掛かることが多い。中途採用で人財会社に支払うフィーも馬鹿にならないのである。メジャーではゲリット・コール投手が投手史上最高額となる9年総額3億2400万ドルでニューヨーク・ヤンキースに移籍した。金額のケタが大きすぎてピンとこないが、ざっくり公式戦で1球投げると110万円くらい貰える計算だ。恐るべしメジャー。

 

 そしてBorrow。社内の他部門などから一時的に人材を借りることを指す。

 たとえば人事部門で人員数や労務費の精度向上を目指すとき、経理マーケティングなど他部門で数字・コストに強い社員を人事部門に異動させ、数年間、後継者の育成と併せてスキルを発揮してもらうケースが該当する。

 

 2019年のベイスターズでも驚きのBorrow施策が行われた。筒香三塁手起用である。

 

 ベイスターズ不動の三塁手、宮崎選手が8月7日に左有鈎骨の骨折で離脱。離脱期間中は誰が三塁を守るのか?中井か、柴田か…。そんな我々の予想を遥かに超える筒香の三塁起用。左翼手を三塁に「借りた」、ラミレス監督の驚きのBorrow策である。2014年以来5年ぶりの起用だったが8月9日から9月11日までの約一か月間、宮崎の復帰まで筒香が主に三塁を守った。

 ちなみに8月9日の三塁出場初日は満塁弾含む2本塁打7打点と大暴れしている。

 

 日本のプロ野球ではBorrow的発想は馴染みが薄いが、メジャーリーグでは頻繁に行われる。代表的なBorrow施策が「フラッグディール」だ。優勝を狙えるチームがシーズン中のトレード期限ギリギリに他球団の主力選手を獲得し、優勝の可能性を高める手段である。たいていの場合、トレードで来る主力選手は翌年にFA移籍となるケースが多い。オフにFAを控えた主力選手の在籍球団がプレーオフ進出可能性が消滅、または絶望的な場合はFA移籍される前に主力を他球団にトレードし、再建に向け若手有望株を獲得するケースはメジャーではよく見られる。

 

 代表的な例が2008年に当時クリーブランド・インディアンスからミルウォーキー・ブルワーズへ移籍したCCサバシア投手だ。2008年、インディアンスで18試合に登板し6勝8敗、防御率3.83だったサバシアは7月7日に4対1のトレードでブルワーズへ移籍。移籍後の17試合で3完封含む7完投、11勝2敗、防御率1.65の獅子奮迅の活躍で見事ブルワーズをプレーオフ進出に導いた。

 なお、2008年オフにサバシアはお役御免(?)でニューヨーク・ヤンキースにFAで移籍。2009年、2010年に最多勝を獲得し、2009年にはヤンキースの世界一に貢献した。

 

Baystarsはどの"B"戦略を採るのか?

 話を筒香の後継に戻そう。

 結論として、ベイスターズはBuildとBuyの両方の戦略を採った。Buildの選手は佐野恵太。2019年、代打で結果を残すとスタメンに名を連ねる機会も増し、規定打席未到達ながらシーズン打率.295のハイアベレージ。2020年にはキャプテンに抜擢された。ドラフト9位のキャプテン、ロマンしかない。

 

 一方、リスク分散でBuyも怠らないのが今のベイスターズ。2019年オフに元トッププロスペクトのタイラー・オースティンを獲得した。2018年にはメジャーで17本塁打を記録し、来日後のオープン戦では打率.343、4本塁打、OPS1.296 と高い順応性を見せた。シーズンでの活躍が待ち遠しい。

 

 絶対的な選手の後継者育成は難しい。ドラゴンズは谷繫の後継となる捕手育成に苦しんでいる。ジャイアンツも阿部慎之助クラスの捕手育成はそう簡単には進まないだろう。

 だからこそ、スムーズな世代交代はファンから見て頼もしく、ワクワクするのだ。イーグルスのエースが岩隈→田中→則本と受け継がれたように。ライオンズの主砲が中村から山川に受け継がれたように。

 

 筒香の後継者は佐野か?オースティンか?それとも他のダークホースか?答えの出る2020年。先行き不透明なこの頃だが、開幕を楽しみにしたい。