継続は力なり。ジョブ型制度について
久しぶりすぎる更新です。
最近、ジョブ型人事制度の議論が盛り上がっていますね。
参考記事↓
相次いで導入される「ジョブ型雇用」とは? 長く働くうえでどのような意味を持つのか |FinTech Journal
ジョブ型制度を簡単に説明すると、
座るイス=職務の役割を明確にし、役割に応じた人材を登用する制度です。
仕事内容ありきのため、年齢も国籍も関係ありません。能力が最重要基準です。
野球に例えるとわかりやすいですね。
グラウンドに立てるのは9人のみ。9つのポジションには守備範囲が(ある程度)決まっており、求められるスキルも比較的明確です。
捕手の場合はキャッチング、スローイング、ブロッキング、投手とのコミュニケーションスキルなどが重要なスキルですね。
一方で外野や一塁手と比較すると打力の優先度は相対的に下がります。
年齢も国籍も関係ありません。20歳の投手が28歳の投手より秀でていれば、出場機会も年俸も上回ります。
ファンに愛される生え抜きのベテラン一塁手も、ある日若い強打の外国人にポジションを奪われるかもしれません。
弱肉強食の世界のため、パフォーマンス次第で戦力外通告も非情に行われます。
このようにジョブ型制度は野球に例えると分かりやすいかもしれません。
これまでの日本企業はメンバーシップ型制度が主流で、職種や勤務地を限定せず、人に仕事を付ける運用が主でした。
ところが、大きく以下の理由でジョブ型制度への転換議論が盛り上がっています。
①事業環境の変化の激しさ
②事業のグローバル化
海外拠点や子会社の職務レベルをグローバル全体で見える化し、各ポストに対応するスキルを明確化の上、最適な人材を登用する…といった文脈です。
一見、理に叶った転換ですが、筆者は薔薇色の未来だけではない、と考えます。
何故なら仕事は生き物のように変わるから。この点がポジション固定の野球との最大の違いです。生々流転なのです。
一度ジョブを作って終わり!ではなく、ジョブの要件見直しは常に必要です。
人事も事業部もビジネスに勝つために常にジョブの必要性、重要性を発信し続け、アップデートを続ける。
導入で終わらせず制度に魂を込め、継続することがジョブ型制度成功の鍵ではないでしょうか。逆に、「とりあえず導入しました」では廃れるリスクが高いでしょう。継続こそ力なり、ですね。
報酬戦線異状あり ~三浦大輔が偉大なワケ~
プロ野球で初めて1億円を超える契約金を手にしたのは野茂英雄である。時はバブル絶頂期、平成の始まった1989年だ。
各球団の財力、戦力のバランスを考慮し、現在ではチーム契約金の上限は1億円+出来高5000万円で設定されている。
ちなみに筆者が応援するベイスターズでは2019年ドラフト1位の森敬斗は契約金1億円、7位の浅田将汰は2090万円と差は5倍近い。さらに育成契約の場合は契約金ではなく、契約金に比べ少額の「支度金」が支給される。ホークスの千賀投手の支度金は300万円、年俸は270万円だった。2020年の年俸は3億円のため、入団時から実に100倍以上の年俸アップとなった。これぞ福岡ドリーム。
アスリートの報酬は実力主義のジャングルである。ドラ1だろうが育成だろうが実力がモノを言う。ではサラリーマンはどうだろうか?日本の企業は長らく、新卒新入社員の報酬を横一線で差を付けずにいた。強いて言えば学士、修士、博士で差をつけるくらい。その後も多くの企業では数年間は差をほとんどつけずに評価するケースが多い。
ところが、ここ最近で新卒社員の初任給に差をつける企業が現れ始めた。
富士通、「ジョブ型」人事制度を導入 幹部社員から 高度IT人材、年収2500万~3500万円想定
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58915330Z00C20A5EA5000/
さらば平等、新人から給与格差 ソニーの覚悟
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58191630X10C20A4FFV000/
時はIT人材争奪戦国時代。シリコンバレーではAIエンジニアの平均年収は日本円で約3000万円、専門スキルを有する新人エンジニアでも2000万円を超えるケースがあるという。日本の大卒新入社員の平均年収が約325万円なので、実に6倍以上の差だ。
昭和、平成の時代では新入社員同期横一線の報酬設定が慣例だったが、時代も変われば価値観も変わる。AIの専門知識をみっちり学んだ院卒のエンジニアを獲得するには、今までの報酬制度では限界だ。プロ野球の世界のように、一年目から実力や期待値に応じた報酬を提示しないと、日本企業は生き残れないだろう。
もちろん入社後は実力の世界。千賀投手のように入社時の報酬は低くとも、頑張ったら報酬がアップする仕組みづくりが人事に求められる。初任給だけ変えて終わり、ではない。
一度会社に入れば安泰…な時代は終わった。アスリートのように入社後も腕を磨き、時には外部の労働市場に柔軟にアクセスできるよう努力を続けないと、生き残りは難しい。もちろん1つの企業に残り続けるのもよい。中村紀洋のように6球団で活躍するもよし、三浦大輔のように1球団でキャリアを全うするもよし。
筆者は転職経験者だが、転職がすべてではない。大事なのはキャリアを定点観測し、必要な知識をスキルをアップデートし活躍を続けることだ。転職は成長と活躍のための手段に過ぎない。
野球の話に戻そう。
立浪和義いわく三浦大輔はもともと1種類のスライダーしか投げなかったが、カット系の小さなスライダーを覚えたことで駆け引きの幅が広がり、厄介な投手に進化したそうだ。三浦大輔も常にスキルを磨いたことで四半世紀わたり活躍したのである。通算172勝、歴代9位の2481奪三振、3276投球回は歴代19位の堂々たる記録だ。それにしても投球回が通算3000を超えって、20年連続で150イニングと考えればとんでもない大記録だ。
その三浦大輔は現役時代の2008年オフ、タイガースへの移籍濃厚と思われたがベイスターズに残留した。当時は横浜の低迷期真っただ中。チーム状況に加え当時34歳の年齢、3年10億とも言われた阪神の提示年俸を考えると移籍濃厚と思われたが、「強いチームを倒したい」との思いで残留。報酬は阪神のほうが高かったかもしれないが、報酬以外の大切なことを教えてくれた番長はやはり偉大である。
Baystarsの"B"戦略 ~3Bフレームワーク~
■さようなら、筒香。そして…
2019年10月28日、その日はやってきた。遂に。やっぱり。
DeNA筒香嘉智のポスティングシステムを利用してのメジャーリーグ挑戦である。筒香は何年も前からメジャー志向を表明していたし、いつかは来ると覚悟はしてきた。が、いざ発表されると複雑な気持ちである。「横浜を代表して頑張ってこいよ!」と背中を押したい気持ちと、「やっぱり行っちゃうのか…」と寂しく心細い気持ちが切なくブレンドされる。前者が7割、後者が3割くらい。国内他球団に行かれるよりはマシだ!と後者の想いは封印し、TSUTSUGOの活躍を期待したい。
気になるのは筒香の後継者だ。誰が彼の後に左翼を守るのか?長打力はもちろん、選球眼も、贅沢を言えばキャプテンシーも欲しい。
今回は主要ポジションから*タレントが抜けたとき、あるいは将来抜けることが予想されるとき、人事的な観点で後継者の配置プランを考察したい。
*ここでの「タレント」は芸能人的な意味ではなく、才能ある人材を意味する
■3Bフレームワーク
「余人をもって代えがたい」とは組織や人材配置の議論で良く挙がる言葉だ。
「彼の税務の知識は組織に欠かせない。異動させられないよ」
「彼女のリーダーシップと語学力は群を抜いている。海外営業から抜かれちゃ困る!」
球界でも似たような話がある。
「山﨑は不動のクローザー。余人をもって代えがたい」
「ショートは源田一択。余人をもって代えがたい」
もちろん優れた人材にベストなポジションで活躍してもらうのは当然だ。でも、いつの日かタレントはそのポジションから離れる。営業のエースが転職するかもしれない。怪我や病気で働けなくなるかもしれない。球界でも、主砲がFAで移籍するかもしれない。怪我で登録抹消するかもしれない。離脱は予想できることもあれば、突如訪れることもある。大事なことは慌てないための準備だ。
慌てないための一つの考え方が3Bフレームワークである。3Bは以下の頭文字を表す。
・Build(育成)
・Buy(外部市場からのタレント獲得)
・Borrow(社内他部門からのタレント獲得)
Buildは育成を指す。
主要ポジションの後継者を早々に定め、育成する。海外赴任や他部門への異動、大人数の組織のマネジメントなど、難易度の高い仕事を経験させる、育成の王道である。かつて西武ライオンズの不動のショート、松井稼頭央は2004年にメジャーへ移籍した。日本最終年の2003年は打率.305、33本塁打、OPS.914。改めて見ると凄まじい。これだけの大選手の後任はなかなか見つからない…と思われた矢先、中島裕之(現在は「宏之」表記)が彗星のごとく現れ、打率.287、27本塁打、OPS.853を記録。22歳の若獅子が見事にその穴を埋めた。ここまでスムーズに世代交代が進むケースは稀だが、西武の野手育成力には目を見張るものがある。
Buyは外部市場からの獲得だ。
スキルを有する者が社内にいない場合の中途採用などが該当する。たとえばIT関連の新規事業立ち上げの際にITスキルの高い人財を社外から採用するケースだ。
野球に例えればFA選手の獲得が一番分かりやすい。筆者は大和選手が横浜に来てくれた時は涙を流して喜んだものだ。
ただし、FAと同様にBuyはコストが掛かることが多い。中途採用で人財会社に支払うフィーも馬鹿にならないのである。メジャーではゲリット・コール投手が投手史上最高額となる9年総額3億2400万ドルでニューヨーク・ヤンキースに移籍した。金額のケタが大きすぎてピンとこないが、ざっくり公式戦で1球投げると110万円くらい貰える計算だ。恐るべしメジャー。
そしてBorrow。社内の他部門などから一時的に人材を借りることを指す。
たとえば人事部門で人員数や労務費の精度向上を目指すとき、経理やマーケティングなど他部門で数字・コストに強い社員を人事部門に異動させ、数年間、後継者の育成と併せてスキルを発揮してもらうケースが該当する。
2019年のベイスターズでも驚きのBorrow施策が行われた。筒香の三塁手起用である。
ベイスターズ不動の三塁手、宮崎選手が8月7日に左有鈎骨の骨折で離脱。離脱期間中は誰が三塁を守るのか?中井か、柴田か…。そんな我々の予想を遥かに超える筒香の三塁起用。左翼手を三塁に「借りた」、ラミレス監督の驚きのBorrow策である。2014年以来5年ぶりの起用だったが8月9日から9月11日までの約一か月間、宮崎の復帰まで筒香が主に三塁を守った。
ちなみに8月9日の三塁出場初日は満塁弾含む2本塁打7打点と大暴れしている。
日本のプロ野球ではBorrow的発想は馴染みが薄いが、メジャーリーグでは頻繁に行われる。代表的なBorrow施策が「フラッグディール」だ。優勝を狙えるチームがシーズン中のトレード期限ギリギリに他球団の主力選手を獲得し、優勝の可能性を高める手段である。たいていの場合、トレードで来る主力選手は翌年にFA移籍となるケースが多い。オフにFAを控えた主力選手の在籍球団がプレーオフ進出可能性が消滅、または絶望的な場合はFA移籍される前に主力を他球団にトレードし、再建に向け若手有望株を獲得するケースはメジャーではよく見られる。
代表的な例が2008年に当時クリーブランド・インディアンスからミルウォーキー・ブルワーズへ移籍したCCサバシア投手だ。2008年、インディアンスで18試合に登板し6勝8敗、防御率3.83だったサバシアは7月7日に4対1のトレードでブルワーズへ移籍。移籍後の17試合で3完封含む7完投、11勝2敗、防御率1.65の獅子奮迅の活躍で見事ブルワーズをプレーオフ進出に導いた。
なお、2008年オフにサバシアはお役御免(?)でニューヨーク・ヤンキースにFAで移籍。2009年、2010年に最多勝を獲得し、2009年にはヤンキースの世界一に貢献した。
■Baystarsはどの"B"戦略を採るのか?
話を筒香の後継に戻そう。
結論として、ベイスターズはBuildとBuyの両方の戦略を採った。Buildの選手は佐野恵太。2019年、代打で結果を残すとスタメンに名を連ねる機会も増し、規定打席未到達ながらシーズン打率.295のハイアベレージ。2020年にはキャプテンに抜擢された。ドラフト9位のキャプテン、ロマンしかない。
一方、リスク分散でBuyも怠らないのが今のベイスターズ。2019年オフに元トッププロスペクトのタイラー・オースティンを獲得した。2018年にはメジャーで17本塁打を記録し、来日後のオープン戦では打率.343、4本塁打、OPS1.296 と高い順応性を見せた。シーズンでの活躍が待ち遠しい。
絶対的な選手の後継者育成は難しい。ドラゴンズは谷繫の後継となる捕手育成に苦しんでいる。ジャイアンツも阿部慎之助クラスの捕手育成はそう簡単には進まないだろう。
だからこそ、スムーズな世代交代はファンから見て頼もしく、ワクワクするのだ。イーグルスのエースが岩隈→田中→則本と受け継がれたように。ライオンズの主砲が中村から山川に受け継がれたように。
筒香の後継者は佐野か?オースティンか?それとも他のダークホースか?答えの出る2020年。先行き不透明なこの頃だが、開幕を楽しみにしたい。
名球会と殿堂入り
■定量評価と定性評価
定量評価と定性評価のバランスは難しい。
ガチガチに数字で縛る定量評価だと短期的な成果に終始するリスクがあるし、一方で定性評価では曖昧さや不公平感が残る。人事の世界でもここ数年で評価の在り方が多様化している。コンピテンシー(行動特性)評価、複雑な業績評価、部下や同僚からの360°評価など・・・。人事業界にもAIやデジタルの波が押し寄せているが、定量と定性の二本柱での評価を模索する時期が続きそうだ。
アスリートも成績で評価される。特にプロ野球は成績を示す様々な数字で溢れている。これほど沢山の数字を扱うスポーツも珍しい。打率、本塁打数、OPS、防御率、UZR・・・枚挙に暇がない。沢山の数字を扱うのでイチローや田中将大のような名プレーヤーの偉業が分かりやすく伝わるのだろう。豊富な数字は野球の魅力だ。
2000年代後半からはセイバーメトリクスの飛躍的な進歩により走攻守あらゆる側面に数字が登場した。これはこれで進化と呼べるのだろうけど、数字ばかりでもつまらない。力と力がぶつかり合うスポーツの醍醐味を純粋に味わいたいし、キャプテンシーや勝負強さのような目に見えない魅力もあってのスポーツだと思う。
■名球会と野球殿堂
プロ野球で優れた成績を残したプレイヤーは大きく二つの団体への入会が名誉とされる。日本プロ野球名球会(以下、名球会)と野球殿堂だ。
・NPBの選手または元選手
・昭和以降の生まれ
・日米通算(NPB、MLBの合算)で以下のいずれかを達成、ただし、NPBでの記録をスタート地点とする。
①通算200勝利以上
②通算250セーブ以上
③通算2000安打以上
会員数は2020年4月現在で投手16人、野手47人の計63人。野手が投手の人数を大きく上回っている。投手分業制が進み通算200勝が過去に比べて困難になった。通算セーブ数もハードルが高く、単純計算で30セーブを9年以上続ける必要がある。チームに一つの椅子しかないクローザーに10年近く君臨するのは至難の業だ。いずれ投手の資格は見直されるだろう。
一方の殿堂入りは2020年4月現在で207人。表彰は大きく競技者表彰と特別表彰に分かれる。競技者表彰はプレーヤー部門とエキスパート部門に分かれ、プレーヤー部門は元プロ野球選手、エキスパート部門は監督やコーチ、審判が対象となる。特別表彰はアマチュア野球の選手、監督、コーチ、審判が対象となり、甲子園や都市対抗野球などプロ以外で活躍した者に向けた表彰だ。
殿堂入りは名球会と異なり定量的な入会基準が存在しない。それでいいと思う。チームの黄金期を支えた名コーチ、都市対抗野球で長年活躍したエース、長年球界に貢献した審判など、2000安打や200勝といったモノサシで評価できなくとも、優れた人材を表彰するには議論を重ねて定性的に評価するのも必要だ。
■助っ人選手と日本人選手
野球に国籍は関係ない。これまでも数多くの助っ人外国人がNPBで活躍し、その発展に貢献してきた(ちなみに筆者はこの「助っ人」という表現が気に入っている)。ところが、NPBではこれまで助っ人は2人しかプレーヤー部門で殿堂入りしていない。300勝投手のヴィクトル・スタルヒンと日系二世の与那嶺要だ。スタルヒンは史上初の300勝投手、与那嶺要は3度の首位打者を獲得した大打者である。2人の殿堂入りには全く異論はない。
しかし、である。1994年の与那嶺要以降、外国人選手の殿堂入りが「ゼロ」なのだ。2年連続三冠王のランディ・バース、同じく三冠王のブーマー・ウェルズ、通算464本塁打、4度の本塁打王に輝いたタフィ・ローズはじめ数々の名助っ人が候補に挙がるも、殿堂入りを果たしていない。他に殿堂入りした日本人選手と比較しても、成績的には殿堂入りに相応しい成績を残したにも関わらず。
殿堂入りは定性評価である以上、投票者に様々な意見があってもよい、しかし、投票の根拠は明確にするべきだ。アメリカ野球殿堂は記名式で投票する。投票者は全米野球記者協会(BBWAA)に10年以上在籍した記者だ。投票後に記者間で投票した選手とその理由などを意見交換するらしく、仮に投票理由が乏しい場合は記者仲間から有力な情報を流してもらえないそうだ。それだけ野球殿堂に重みがある。全てをアメリカの模倣とする必要はないが、球界における最高の栄誉であるNPB殿堂入りの権威を更に高める上では、記名式とするなど、透明性のある投票は必要だろう。
令和に入り、NPBの殿堂入りも変化が必要な時期なのかもしれない。
プレイヤー(選手)か?マネージャー(監督)か?
■「課長?興味ありません」
昇進したくない若者が増えているという。
ある調査によると、20~30代の約6割が出世を望まないらしい。理由は責任が重くなる、現場の仕事が好き、プライベートを優先したい・・・など。 「重役出勤」という言葉も最近は聞かなくなった。むしろ役職の高いビジネスパーソンほど朝が早い。立場が上がると経営層からのプレッシャーも強く、タイヘンなのである。
「ピーターの法則」というものがある。どれだけ優秀な人でも、昇進後の特定のポジションがその人の能力の限界である場合、そのポジションに留まり続ける。この法則では全ての人は特定ポジションが限界で昇進が止まり、組織内には能力のない人で溢れる…のだが、実際は能力の限界に到達していない人たちによって組織は成り立つというものだ。
どれだけ優秀な人でも、ポジションが変われば実力が発揮できない可能性がある。大谷翔平のような例外を除いて・・・。
■監督も管理職も辛いよ
管理職に昇進しても、昇進前と同様に手を動かすケースも多い。「プレイングマネージャー」と揶揄されるが、「代打、オレ」のような決定権も少ない。その上、部下のマネジメントや育成の責任も負い、自分だけ頑張ってもチームで成果が出せないと評価されない。「やってらんねーよ!」と思う気持ちはよく分かる。
プロ野球選手が引退直後に監督に就任する場合も同じような心境なのだろうか?
高橋由伸は代打の切り札として活躍後、2015年から18年にかけて監督に就任。この間巨人は一度も優勝できずに高橋監督は辞任した。
一時代を築いた名捕手、古田敦也も2006年に選手兼任監督に就任。一年目こそ3位に食い込んだが、翌年最下位に沈みそのまま監督を辞任。
特に古田のケースでは監督、捕手のどちらか片方だけでも大変なのに、兼任のプレッシャーは相当なものだろう。会社でもいくつもの兼務を持つ人を稀に見かけるが、うまく機能したケースはあまり見ない。
役割が変わっても成果を挙げ続けるのは相当な難易度だ。落合博満のように選手・監督ともに最高クラスの成績を挙げるケースはごく稀だ(GM時代はさておき・・・)。
逆に、名選手でなくとも指導者として輝く可能性はあるのだ。その代表例がメジャーリーグで監督を務めたスパーキー・アンダーソンだろう。
■スパーキーって誰?
1970年代のシンシナティ・レッズは史上最強のチームとの呼び声が高い。1970年から78年にかけてレッズを率いたスパーキー・アンダーソンは、選手時代は1年のみメジャーでプレーした。通算成績は152試合で打率.218、0本塁打、34打点、OPS.531。お世辞にも名選手とは呼べない成績で引退後、1964円よりマイナーリーグで監督を務め、1970年にレッズの監督に就任した。
監督就任時のアンダーソンはあまりにも知名度が低かったため、マスコミから「Sparky, Who?(スパーキーって誰?)」と書かれたほどである。ところがアンダーソンは就任1年目で102勝を挙げリーグ優勝。レッズ在籍時の9年間で5度の地区優勝、1975年と76年は2年連続世界一と、最強のチームを作り上げた。
歴代1位の通算4256安打のピート・ローズ、捕手として史上唯一本塁打王を獲得し、生涯389本塁打を放った最強捕手ジョニー・ベンチ、75~76年に連続MVPに輝いた二塁手ジョー・モーガンなど最強のスター軍団を率い、チームはいつしかビッグレッドマシンと呼ばれ、他球団から恐れられた。今でも歴代最強チームに挙げられる。
アンダーソンは1979年からデトロイト・タイガースの監督を17年間務め、1984年には世界一に輝いた。監督としての生涯勝率は.545。選手としては実績を残せなかったが、監督として殿堂入りを果たした。まさに「名選手は必ずしも名監督にあらず」なのである。
■これからの昇進論
会社でもスタッフとしては優秀だったのに、管理職に昇進したとたんに輝きを失うケースはよく見られる。ジョブマネジメント(自分の仕事の管理)とピープルマネジメント(ヒトの管理)は求められる役割が異なるのだ。
異なる役割にスムーズに移行する上で、昇進前に「慣らし」としてピープルマネジメントの疑似体験を積ませ、力量を見極めた上で上位役職にチャレンジさせるのはどうだろうか。ヒトの管理が苦手なら、部下なしの優秀スタッフとして処遇するのも手だろう。
アンダーソンも選手引退後にまずはマイナーリーグの監督からスタートし、マネジメント経験を積んでメジャー監督として輝いたのである。
ちなみにアンダーソンは1996年オフに阪神タイガースの監督オファーを受け、契約寸前まで話が進んだが、夫人の猛反対によりお蔵入りとなった。もしもアンダーソンが当時低迷中の阪神を立て直したなら日米のタイガースファンの間で伝説となったに違いない。